高田 延彦 vs. ゲイリー・オブライト(1992.5.8)◇昭和のプロレスおじさんが振り返る平成プロレス31番勝負◇ 平成の「プロレスと僕」の来し方をプレイバック! 第4戦 平成4年(1992年,22歳) 平成4年5月8日 横浜アリーナ UWFインターナショナル ‘92YOKOHAMA ▽格闘技世界一決定戦 高田 延彦 vs. ゲイリー・オブライト 田村 潔司 vs. マシュー・サード・モハメッド ▽山崎 一夫 vs. 北尾 光司 大学4年生となっても就職活動に着手もせず、5月に迫っている劇団ひまわりダンス公演の稽古に明け暮れていた。子供の頃から運動に苦手意識を持っていた。体を動かすことよりも家でプロレスのビデオを観ている方が楽しかった自分が、劇団ひまわりで出会ったジャズダンスにだけは夢中になって取り組んでいた。人生の師匠というべき先生に出会ったことも大きいし、体を動かして、気持ちを表現することが性に合っていたのかもしれない。学校での体育の授業や、中学での野球部の活動などは面白くないというか、心からは楽しんでいなかったと思う。そう考えると、プロレスというのも体を使って喜怒哀楽、対戦相手や相棒たちとの人間関係を表現するものだ。だから僕はプロレスに興味を持ち続けているのかもしれない。 この頃、プロレス界は新日本、全日本の老舗団体と、リングス、UWFインターナショナル、藤原組という格闘技、スポーツライク志向の3つのUWF系団体、大仁田厚率いるFMWのようなデスマッチ路線のインディ系と呼ばれる団体に色が別れていた。 僕は物心ついた時からアントニオ猪木と新日本プロレスを支持していたので、そこから派生した猪木の弟子たちが旗揚げしていた団体、つまりU系にも興味を持っていた。U系3団体の中でも、高田延彦は新日本に所属していた時から期待してみていたので、必然、UWFインターナショナルの活動を週刊誌で追いかけていた。当時は新日本、全日本以外はテレビ中継がなく、実際に試合を見ようとするなら、試合会場に足を運ぶか、試合を収録したビデオ発売を待つしかなかった。ビデオは流通数が少ないことと、アナログならではの時間当たりの生産数が限られていたため、一本当たり9,800円が相場だった。 さてセシオン杉並での劇団ひまわりダンス公演が5月14日、15日に迫り、稽古にも一層熱がこもる毎日だった。でも、できないこと、もっとやらなくてはいけないことがまだまだあって、楽しいだけでなく、その一方でストレスもかなり溜まってきていた。就職活動の心配よりも、チケットノルマを捌くことの心配が大きいくらいだったのだ。 そんな中、5月8日に稽古が終わった後、ロッカールームで帰る支度をしていると、同じ公演に出る田村くん(現・アントニオ小猪木)が「今日Uインターの高田対オブライトが横浜であるんですよね!北尾も出ますよ!」と声をかけてきた。反射的に僕は「行きたいね!」と返してから新横浜駅行きの電車に乗るまでに時間はかからなかった。 この日は横浜アリーナで高田延彦対ゲイリー・オブライト、田村潔司対マシュー・サード・モハメッドの二大格闘技世界一決定戦が。そして何より注目の北尾光司対山崎一夫も行われる。北尾は新日本プロレスでプロレスデビューをしたが、プロレスセンスがなく、次に行った天龍率いるSWSでは試合中、対戦相手にマイクを使って「この八百長野郎!」と発言してしまい、プロレス界から追放同然になっていたのだ。元大相撲の横綱で、プロレスを「八百長」呼ばわりした北尾が、格闘技色を前面に打ち出し、「最強」を謳い文句にするUWFインターナショナルに登場、二番手の山ちゃんと戦うのだから、プロレスファンのみならず、世間一般の注目度も高かったのではないか。 新横浜駅に着くと、はやる気持ちを抑えることなく急いで横浜アリーナの当日券売り場に走る。リングからはやや遠いが、見やすいスタンド席に陣取り観戦をした。上記の三試合が始まる前の前座は正直言って退屈なものだった。キックや掌底打、倒してからのグラウンドでの攻防が多く、老舗団体のようなストンピング、ロープワークは皆無。退屈に感じてもそれを口にすると「わかっていないな、見る目がないな」と思われる風潮が当時はファンの間であった。大学生が難しい哲学書を、これも馴染みのないジャズ喫茶、クラシック音楽喫茶で訳知り顔で難しい顔をしながら読んでいるような感じといえば想像できるだろうか。この日の前座のある試合で、突発的に選手がスープレックスを不完全ながら出した時、歓声が沸いた。それをみて田村くんは「この技を出したくらいで湧くんですよ。よっぽど退屈しているんですよ、本当は!」と言った。こう言うところの勘所は田村くんは鋭く、率直だった。 注目の北尾光司の試合は、歓声はやっぱり山崎一夫に集中。それは「北尾、プロレスなめんじゃねぇ!」という気持ちがあったことは確かだが、それ以上に北尾の持つ潜在的な驚異的強さに対する恐れの裏返しだったのだろう。山ちゃんがローキックなどを当てていくたびに大歓声が沸き起こる。しかし一旦北尾が捕まえると、無慈悲なくらいに強さで山ちゃんをKOしてしまった。現実を見てしまった横浜アリーナに漂った戦慄は今も鮮明に思い出すことができる。 田村潔司は当時はまだまだ若手の領域と見られていたので、今回の格闘技戦への出場は大抜擢に映った。試合はあっけないほど短時間で田村が相手からギブアップを奪い勝利。そのあっけなさからは意外なほどに勝利後に見せた田村の大歓喜と、そこまでに背負っていた緊張と重圧からの解放の表情が印象的だ。 メインイベントは高田とオブライトの一騎打ち。ぎゅっと濃縮された充実した攻防だったと記憶する。オブライトが高田にはなったジャーマンスープレックス二連発。起き上がって反撃してくれという期待は脆く、高田は寝たまま10カウントを聞いてしまった。オブライトがUインターに登場して以来、相手をことごとくジャーマンでマットに叩きつけKO勝ちを続けていたが、必ず高田だったら止めてくれると思っていた。ここでも現実を見せつけられた衝撃。 UWFインターを会場で観戦したのは、この日の一回だけになった。その後謳い文句の「最強」を実証するために、他団体を挑発し続けながら企画を進め、話題と注目を大きく集めていたが、多くの要素が絡んだ末、平成8年(1996年)暮れに団体は解散した。 今でもあの日の話を田村くんとすると、「あんなに突発的、衝動的に見にいくなんて、俺たち、相当ストレス発散を求めてたんですね。」という結論になる。予定していなかった観戦とはいえ、結果的にいい興行に立ち会うことができたと思う。平成初期に咲いたUWFという最強神話だった。 この後、5月14日にダンス公演を経験し、舞台上でお客様の目の前で踊る快感を知った僕は、この世界で生きていきたいと思った。そして8月に大阪で劇団四季のキャッツを見たことで気持ちに拍車がかかった。劇団四季に入りたい!ここから12月の入団オーディションまで短期間だが、ストイックにダンスを勉強した。書類選考を通り、歌とセリフの一次試験も通してもらった。しかしダンスの結果がよくなく、不合格。でも諦めきれず、来年もう一回受験したいと思いながら、年の暮れを迎える。
by meishoubu
| 2019-04-19 16:28
| 1992年(平成4年)
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